転移の原因は何かというと、移植の際に欠かせない免疫抑制剤の注射でした。移植手術というのは、他人の臓器を移植するわけですから、どうしても移植された側の患者さんの身体に「拒絶反応」が起こります。これを緩和するために免疫抑制剤を使うのですが、これによって免疫力は低下します。免疫力が落ちた状態で腎臓がんができたわけですから、がんはいわば野放し状態。進行も速かったのです。腎臓がんには有効な治療法がなく、あきらめた主治医は、思いきって免疫抑制剤を中止することにしました。そうすると、移植した腎臓は、次第に正常に戻っていった免疫力の攻撃を受けて腐ってしまいました。その患者さんは、移植前の人工透析に逆戻りしましたが、免疫力が回復することによって、がんもみるみるうちに消えていったのです。免疫力が落ちるということは、人間にとってこんなにも恐ろしいことなのです。どんなに最新の医療技術も、免疫力を失ってしまった身体には、何の効果もありません。